エコーロケーションで全盲の人が自転車を乗りこなす。その驚きのやり方とは。

私たちは外界からの情報のほとんどを視覚情報から得ています。
その割合は80パーセント以上だと言われています。
試しに目をつぶったまま、歩いたり、走ったりしてみようとすると、とても怖くて目に進めない方がほとんどではないでしょうか?
それが沢山の人がいる街中だったら、なおさらでしょう。
足がすくんでしまいそうです。
ところがです。
エコーロケーション(或いはエコロケーションとも言われています)という手法を身につけると、それが可能となるというのです。
そしてそれが「歩くこと」、「走ること」だけでなく、「自転車までも乗りこなしてしまう」程だというのだから驚きです。
凄いことだと思われませんか?
しかもその能力は、特別なことではなく、誰にも備わっている潜在能力で、ある程度の訓練をすればそれが可能になるというのです。
それは一体どんな能力であり手法なのでしょう?
そこで今日はそんな「エコーロケーション」についてお話しできればと思います。
早速見ていきましょう。
「エコーロケーション」とは? イルカ達もやっている手法
「エコーロケーション」とは反響定位(はんきょうていい)とも呼ばれています。
これは動物が自ら発した音が何かにぶつかり返ってきたものを受信し、それによってぶつかってきたものの距離を知るというものです。
それぞれの方向からの反響を受信することで、そこから周囲の位置関係、それに対する自分の位置を知ることができるというのです。
視覚情報ではなく、聴覚情報によって、自分の位置や物体など周囲との位置関係を知り、見ていることになります。
まさに「音」で見る世界と言えるでしょう。
普段私たちは視覚でほとんどの情報処理を行っている為、聴覚に頼るということがほとんどありませんが、夜就寝する際、明かりを消すと物音が普段よりくっきり、はっきり聴こえることがあるように、違う能力が自然と使われる、あるいは発達するということがあるのです。
同様のことを動物も行っており、その代表格が、イルカ、クジラ、シャチなど海の動物とコウモリといった夜行性動物です。
彼らは自分が発した音(超音波)によって、獲物を探したりします。
イルカはお互いのコミュニケーションにも使っているというのは有名ですね。
驚きなのが、音による感受法ではあるものの、一般の聴覚よりも、むしろ視覚に近い役割を担っている点です。
ですので、コウモリは目隠しをしても普通に飛ぶことができますが、耳をふさぐと飛ぶことができないそうです。
まさに「音」で見ているのですね。
このやり方を習得した全盲の方がアメリカに!
このエコーロケーションを使って、全盲にもかかわらず、自転車まで乗りこなす方がアメリカにいます。
ダニエル・キッシュさん(男性)は「網膜芽細胞腫(もうまくがさいぼうしゅ)」という目の病を持って生まれました。
これは眼球内に発生する腫瘍で、命を救う為に、眼球の摘出手術を受けました。
視覚を失った彼ですが、成長する過程でエコーロケーションを身につけていったと言います。
それも2歳までに習得していたというから、物凄いスピードです。
当時は家族は目が見えないはずのダニエルさんがどうして周囲の状況が把握できるのか分からず、彼の行動に大変驚いたと言います。
2歳で習得と言いますから、誰かに教わったり、習ったのではなく、身体や脳が自然と閉ざされた部分を補うかのように自然発達したと言えると思います。
彼は舌先で「チ、チ、チ」といった鋭い音を鳴らし、その反響音を聞いて周囲の状況を把握し、これにより彼は日常生活だけでなく、自転車に乗ったり、山にハイキングに出かけることといったことも1人で行えるのです。
そう、ダニエルさんは反響音から周囲の三次元イメージを得ていて、周囲の状況を立体的な三次元画像として頭の中で思い描くことができるのです。
その上、彼は木材や金属といった構成されている素材の違いも音で理解できるといい、単純な形状だけでなく細部まで理解、見ることができるのです。
世界中を旅したり、数週間一人でキャンプ生活も送ると言ったことだけでも、驚愕の事実ですが、彼の活動の幅はそこからさらに広がります。
彼は習得したエコーロケーションを「フラッシュソナー」と名付け、2000年から非営利団体「World Access for the Blind」を立ち上げました。
習得することで、盲目の方の世界が広がり、今までできないと思われていたことを可能にすることが目的で、世界各地でその指導が行われています。
これまでに500名以上の方の指導を行ったのだとか。
こちらも凄い数ですね。
まさにシャンパンタワーのように、物凄い勢いで広がっていっている彼の活動です。
彼のこうした活動により、世界が広がり、人生が広がった方が沢山いらっしゃることでしょう。
人間の可能性、潜在能力について
エコーロケーションという能力は、目が見えない方の為の能力だと思われた方も多いかと思いますが、決してそうではありません。
もちろん元々はダニエルさんのように、失われた能力を補う形で大きく発達する方が多いのは事実ですが、目が見える人であっても同じように訓練をすれば、同様の能力が身につけられるというのです。
普段使う必要度が低いために発達していないだけで、必要性が生じればその能力の芽は芽吹いてくるのです。
それにはまずそのような能力が備わっているということを「知ること」です。
ダニエルさんのように体験が先で、情報や理論は後からといったケースもありますが、知っていることで才能のスイッチが「オン」になりやすいと思います。
ある器官が失われた際に、別の器官がそれを補う、こういった人体のメカニズムには素晴らしいとしか言いようがありません。
また人体含め、脳のメカニズム、潜在能力といった分野に関しては、まだまだ解明されていないことが多く、それだけ未知の世界であり、可能性がある分野でもあります。